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あんこのつぶつぶ部屋

あんこがつぶつぶっとお話を書いてます。 二時創作だったりオリジだったり色々。
2024
11,23

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2009
09,26
久々な獣耳話です。
何てこともない話ですが。エドガーとリディアがお昼寝しようとしてます。ただそれだけ。

「 毛布とお昼寝 」


ぽかぽかと暖かい、午後の昼寝の時間はリディアにとって何よりも大事なものだった。
ふかふかのベッドの中で寝るのもいいけれど、芝生の上でごろりと横になるのも気持ちいい。
数秒悩んだ末、リディアは毛布を一枚つかむと庭に出た。ちょうど木陰になった木の下で思い切り寝そべる。寒いわけではないが、申し訳程度に毛布をかける。そうした方が何となく安心するのだ。
木の葉の揺れる音や妖精たちのおしゃべりに、獣の耳がぴくぴくと動く。早く獣消しができるようになればいいのにと、そんなことを考えながらうとうととする。眠りそうで、まだ眠りの中には入らない。何て幸せな時間だろうか。
「リディア?」
それを邪魔する声。
無視してやろうか、と瞬間思う。でも、同時に耳はぴくっと動いてしまっているから、聞こえなかったフリもできない。
「リディア。そんな所で何してるんだ?」
これが料理をしている姿にでも見えるのだろうか。
すぐ傍までやって来たのが足音でわかった。せっかく気持ちいいところだったのにと、若干苛立ちを覚えながらリディアは目を開ける。
「お昼寝」
一言で答えて、もういいでしょと再び目を閉じる。今ならまだ、逃げ去ろうとしている睡魔にも追いつくことができるかもしれない。
「昼寝って……」
文句を言いたげな声に、さらに苛立ちが募る。再び目を開けると、立ったままのエドガーがリディアの顔を見下ろしていた。
整ったその顔は、逆光でよく見えない。けれど、呆れていることだけは何となくわかった。
「何よ、あたしは昼寝しちゃいけないの? 家の掃除だって終わらせたし、今日は草むしりだってしたのよ」
十分働いた、と思う。それを言うなら、朝食を終えてからふらっと出かけてしまったエドガーは、今まで一体どこで何をしていたのやら。
睨み付けるようにして言うと、エドガーは慌てたように口を開いた。
「そうじゃなくて、女の子なんだから、こんな外で寝て何かあったらどうするのかって言ってるんだよ」
「そんなこと心配してるの?」
「そんなことって……」
エドガーは絶句した。
何だか眠気もすっかり覚めてしまった。起き上がって、「だってそうでしょ」とリディアはエドガーを見上げる。
「だって、あたしが男の子達にいじめられてたのって、もうだいぶ前の話じゃない。その頃は、顔を見る度に何かされてたけど……あなたが来てからはそんなことは無いでしょ? 昼寝してるあたしを見つけたって、エドガーのことが怖くてだれも何もできないわよ」
「……僕が心配しているのは、そういうことじゃないんだけどね」
ため息をついたエドガーは、けれど「まあ確かに、僕が怖くて何もできないっていうのは当てはまるかもね」と頷き、リディアの隣に腰を下ろした。
「どうして部屋で寝ないの?」
「だって、いい天気だもの。それにほら、芝生の上って気持ちいいでしょ?」
「そう言われればそうだね」
そんな風に答えるエドガーは、まるで今初めてそのことに気づいたような顔をしていた。
「エドガーって、昼寝とかしてる?」
「うーん、あんまりしないかな」
あんまりというよりは、全然しないのではないだろうか、とリディアは思う。少なくとも、今まで昼間に寝起きのエドガーを見たことはない。
「リディア達は昼寝するのが好きだよね。やっぱり猫だからかな」
頭を撫でられながら、そうなのかしら、とリディアはぼんやり考える。
種族の違い。普段は考えないそれを、エドガーと一緒にいるととたんに意識させられる。獣消しをしているエドガーは人間にしか見えないが、けれど立派なリカントロープ、狼の一族だ。
狼のエドガーは夜目もあまり利かないし、高い所もあまり得意ではないという。リディアが平気で木に登り、一番上から飛び降りようものなら、血相変えて飛んでくるのだからおかしい。普通に着地できるのにと言っても、危ないからの一点張りでエドガーはちっとも聞いてくれないのだ。
家族のように暮らしてはいるけれど、エドガーは自分達とはやはり違うのだ。
まるで、一匹だけ紛れ込んでしまったような。
「……寂しい?」
「え?」
「えっと……」
声が小さくて、聞こえなかったのだろうか。
でも、改めて尋ねるようなことでもないしと、リディアは悩む。
「大丈夫。リディアや教授がいてくれるから。寂しくなんてないよ」
どうやら、ちゃんと聞こえていたらしい。抱きしめてから頭を撫でられる。
その返事にほっとしたけど、反対に慰められてしまったと気づいて微妙な気持ちになった。そりゃ、年上でリカントロープのエドガーは、リディアになんて慰められたくはないだろうけど。
「こんな可愛い子猫がいるのに、寂しくなるわけないだろう?」
からかうように笑うエドガーに、リディアはとたんにむくれた。
「もう、あたしは子供じゃないってば!」
子猫だなんて。
出会った頃、エドガーはよくリディアのことをそう表現した。確かにあの頃は子供だったが、数年経った今でもどうして子猫扱いされなければならないのか。
ぶすくれたリディアの頭を、笑いながらエドガーが撫でる。耳の付け根を人差し指で引っかくようにして撫でられれば、気持ちよくて尻尾がへにゃんと曲がってしまう。
「尻尾も梳かしてあげようか」
大人になれば、尻尾の手入れなんて自分でするもの。
でも、人にされるのは自分でするよりもなぜかすごく気持ちいい。
だからリディアは、時たま甘えてエドガーにしてもらうことがあった。梳いてもらっている最中に眠くなって、寝てしまうことはしょっちゅうだ。
「いいわよ。昼寝したいんだから邪魔しないで」
「そう?」
つい意地を張ってそう言ってしまったものの、あっさりエドガーが引き下がり、なおかつ立ち上がってしまうものだから驚いた。
別に、ものすごくやって欲しかったわけじゃないけど。
「エドガー?」
「うん?」
「えっと……お昼寝しない?」
やっぱり尻尾梳かして、なんて言うのは恥ずかしいと思ったら、全く違う台詞が口から飛び出してしまった。
何となく、一緒にいたかったのかもしれない。そういえば昨日も一昨日も、エドガーは朝から家にいなくて、ろくに話もしていなかったから。
「君と一緒に?」
「い、嫌ならいいけど」
「まさか」
ふわりと微笑むと、エドガーは元いた場所に腰を下ろした。ほっとして、思わず息を吐いたリディアの頬にキスを落として、エドガーは何とも言えない表情を浮かべた。笑っているのか、困っているのか。
「君って本当に……」
「なに?」
「いいや」
ぽんぽん、と肩を押されて、リディアは芝生に寝転がる。もう眠気は飛んでしまったし、と思ったが、エドガーに毛布をかけてもらえば、何だか今すぐにでも眠れるような気持ちになってしまった。現金なものだ。
エドガーはごろっと隣に寝そべった。毛布の中に入れてあげようとすれば、優しい力でその手は押し留められた。そういえば、狼のエドガーは寒さにも異常に強いのだ。
エドガーの顔が、すぐ傍にある。
子供の頃はよくエドガーのベッドにもぐりこんだが、いつの頃からかそんなこともなくなった。だからすぐ隣にエドガーが寝そべっていることが、何だか不思議でたまらなかった。
睫毛が長いな、とか。
どうしてこんなにキレイな顔をしているのだろうとか。
「ねぇリディア」
「ん?」
「言っておくけど、僕以外の男に、一緒に昼寝しようなんて誘ったら怒るからね」
ぱちくり、とリディアは瞬きをする。
だってそんなの。
「言うわけないでしょ? いじめられたりはしなくなったけど、友達になったわけじゃないもの。どうしてそのぐらいの付き合いなのに、一緒に昼寝なんてしなきゃいけないの?」
「……そうじゃなくてね」
さっきの絶句よりも、沈黙はずっと長かった。
たまにエドガーは、リディアにはよくわからないことを言う。そしてリディアが首を傾げている間に、エドガーは勝手に話を終わらせてしまうのだ。
言っても無駄だと、エドガーがそう諦めていることは、リディアは知らない。
「まあいいよ。そんなことをしようものなら、僕に頭を噛み砕かれることはわかっているだろうしね」
「ちょっと、エドガー」
怖いことを言うのは止めてと、軽く睨めば「ごめんごめん」とエドガーは笑って謝ってくる。
きっとエドガーが本気になれば、そんなことは造作もないことなのだろう。こうして寝そべった今だって、簡単にリディアを殺すことだってできるのだろう。
頭ではそうわかっていても、それは何とも実感の沸かないものだった。だってエドガーは、時に父よりも心配性なぐらいなのに。
「もう眠いかな?」
「……えぇ」
まあ、そんなもの、実感が沸かなくたっていいのだ。
こんな気持ちのいい午後の時間に考えるべきことではない。
少し風が出てきた。エドガーは黙って毛布をリディアの肩まで引っ張り上げた。
「……おやすみなさい」
「おやすみ」
いい夢を、とエドガーは呟いた。
狼に見守られながら、リディアはそっと夢の扉を叩いた。


**


この後は普通にエドガーもぐっすり眠ってしまって、仕事から帰ってきたカールトン教授に起こされるんですが、長くなってしまったのでここまでで。
猫族はお昼寝が大好きです。猫なので。とくにリディアはよく寝てると思います。エドガーは昼寝中のリディアを見つけては、色々ちょっかい出してるんじゃないのかなーと。
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