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あんこのつぶつぶ部屋

あんこがつぶつぶっとお話を書いてます。 二時創作だったりオリジだったり色々。
2024
05,02

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2009
05,28
FC2で借りてたようせいブログが、ちょっとも迷惑コメントが多くてめんどくなりました。あと広告とか。
そんなわけで乗り換え。適当に小話を書けたらいいなと。

でもって久々の年の差エドリディです。リディアが少し大きくなった頃の話。

「ねぇねぇ、エドガー、エドガー」
邸宅に帰ってきたとたん、まとわりついてくるのは一人の少女だ。
引き取った頃に比べれば、格段に背が伸びた。とは言っても、背伸びをしてようやくエドガーの胸に頭が届くかどうかといったところだ。存分に子供らしさを残した彼の『婚約者』は、にこにこと笑顔を浮かべながら、ちょろちょろとエドガーの周りを回っている。
まるで犬みたいだな、と思ったが、それはさすがに口には出さないでおく。機嫌を損ねた少女の相手は厄介だ。
「あのね、エドガーに見てほしいものがあるの」
「何だい、リディア。おかえりの挨拶よりも重要なんだから、さぞかし大層なものなんだろうね?」
「あっ。……お帰りなさい、エドガー」
「ただいま」
一体いつになったら落ち着きというものが身につくのだろうとエドガーは苦笑する。早く一人前のレディーになってほしいものだと思う一方、そんなところが可愛いのだと思えてしまうのだから重症だ。エドガーに限らず、この屋敷の使用人は、みんなそう思っているのだろう。見ていればわかる。
子供というのは不思議な生き物だ。その場にいるだけで、辺りの空気を変えてしまう。
リディアが来てからというもの、この邸宅は格段と明るくなった。子供の笑い声が響くだけで、こうも変わるのかと驚いたことをエドガーは覚えている。本当に不思議だ。
「話があるのなら、お茶でも飲みながら聞くよ。部屋に行くまでぐらい我慢できるだろう?」
「……そのぐらいできるわ」
無理をしているその様子に、エドガーは笑い出しそうになる。リディアは必死に何でもない素振りを装っているのだろうが、その表情はとても素直だ。そわそわとしている様子が可愛らしい。
部屋に入り、ソファに座れば、すぐさまトムキンスがお茶の用意を始める。
「トムキンスさん。あたしがやるわ」
いつもなら、エドガーの隣に座っているのに。
珍しいなと思いつつも、リディアが危なっかしい手つきで紅茶を入れるのを眺める。火傷でもしないかという心配は杞憂に終わった。いれた紅茶をエドガーと自分の前に置いたリディアは、ずいぶんと満足そうな顔をしている。
「はい、エドガー」
「ありがとう。今日はどうしたんだい?」
「別にどうもしないけど……エドガーに見て欲しい物があるだけ」
「何だい?」
尋ねると、リディアは机の上にあったそれを開いて、はいっとエドガーに手渡してきた。
気婦人方が好んで見る、ファッションプレートだ。美しい帽子を、エドガーは数秒の間眺める。なるほど、そういうことか。
「ね、すごく素敵な帽子だと思わない?」
「そうだね。来年か再来年辺りになれば、リディアにもこういう帽子が似合うようになるだろうね」
リディアの気持ちをわかった上で、あえてエドガーはそんなことを言う。気づかないフリをして。
「……来年か再来年?」
「こういう帽子は、一人前のレディーが被るものだろう?」
スコーンを持ってきたトムキンスの視線を感じる。きっと、意地が悪いと思っていることだろう。自分でもそう思うのだから。
とたんにむすっとした顔になって、リディアはエドガーを見上げる。一人前のレディーがする表情ではないと、本人は気づいてもいないのだろう。それがまたおかしい。
「あたし、もう子供じゃないわ」
「本当にそうかな?」
「だってエドガー、あたしが来月で何歳になるか知ってる?」
挑戦的な眼差しを向けてくるリディアに、エドガーはわざとらしく、うーんと考え込んでみせる。
とたんに、リディアは慌てた顔になった。
「エドガー、あたしが幾つになるか忘れちゃったの!?」
まるで、今にも世界が終わるような顔をするのだから。
吹き出しそうになるのを堪えながら、エドガーはにこやかに笑う。あまり苛めすぎては可哀想だ。それに、後でトムキンスに小言を言われてしまう。
「まさか。そんなわけないだろう? 来月で君は十五歳だ」
「……そうよ。十五歳になるの」
ほっとしたように、リディアは息をもらす。エドガーが忘れたとでも言おうものなら、本当に泣き出していたかもしれない。
「だからね、エドガー。十五歳は、もう子供じゃないでしょ?」
立ち直ったリディアは、とたんに笑顔になる。それが絶対の真理であるという顔をして。
エドガーから見て、リディアはまだ子供だ。トムキンスに聞いてもそうだと言うだろう。そんな子供らしいところが可愛いと、甘やかしてばかりいるから、いつまで経ってもリディアは幼いままなのかもしれない。
けれど仕方ない。
こんな愛らしい少女相手に、どうして甘くなれずにいられるだろうか?
「……そうだね、十五歳はもう子供じゃない。今の君にも、この帽子は似合うだろうね」
「本当っ!?」
「でも、買い物に行くのは明日だよ。今日はもう暗くなるからね」
「えぇ、明日で構わないわ、全然!」
今すぐ出かけたいと、そうごねるかと思っていたのに。そこまで子供ではなかったということか。
ご機嫌な顔で、リディアはファッションプレートを眺めている。これが欲しいと、もっと単刀直入にねだってくれてもいいのにと、その横顔を眺めながらエドガーは思う。リディアのねだり方は、いつもどこか回りくどい。どうすればエドガーが買ってくれるだろうかと、必死に本人は考えているらしいのだが、欲しいと一言リディアが言えば、それだけで話は終わるのだ。望む物は全て与えてやりたい。それで笑ってくれるのなら。
とは言っても、甘やかすだけというわけにはいかない。エドガーは、リディアの婚約者であると同時に、その後見人でもあるのだから。
「なら、明日出かける分、今夜は寝るまで勉強だね」
「どうして? だって、ちょっと帽子を買いに行くだけじゃない。帰って来てから勉強したって……」
「おや、せっかく買い物に出かけるのに、帽子一つでいいのかい? それに似合うドレスを仕立ててあげようと思ったんだけどな。たまには、外で食事をするのも楽しいかと思ったんだけど。あぁ、もちろんリディアが、早く帰って勉強したいって言うのならいいんだよ」
にっこりと笑って言えば、リディアはぐっと言葉につまる。
子供相手に大人気ない。自分でもわかってはいるが、楽しくて仕方ない。
沈黙は、ほんの数秒だった。
「……だって、もう、先生の労働時間は終わったんじゃないの?」
それが、リディアの精一杯の抵抗なのだと思えば笑いが漏れる。
「もちろん、家庭教師の自由時間を邪魔するつもりはない。僕が見てあげるよ。フランス語とダンスのレッスンと、どっちがいい?」
「―――エドガーの足が腫れたら、明日一緒に買い物に行けないから、フランス語」
どれだけダンスが苦手なのだろう。
気になったが、とりあえずそれは追求しないことにした。
勉強なんて嫌だと、顔いっぱいに表現するリディアに、それは少し酷だと思ったから。

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