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あんこのつぶつぶ部屋

あんこがつぶつぶっとお話を書いてます。 二時創作だったりオリジだったり色々。
2024
11,23

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2009
09,19
久々、兄妹の短編です。けっこう前からあったネタ。
本当はこの後のワンシーンが書きたかったのですが。それは気が向いたら。
割と兄妹の中のこのミーシャは重要な位置にあります。何せ妹がミーシャ溺愛なので。何かにつれミーシャミーシャ言ってます。兄はそんな妹を見てもんもんとしてたりしなかったり。

一緒に寝よう、と誘った夜、エドガーの寝室を訪れたのはリディア一人ではなかった。
正確には、リディアと、もう一匹。
「……何だか、見慣れない顔ぶれなようだけど?」
「やだ、兄さま。ミーシャの顔を忘れちゃったの?」
「いや、それは覚えているけどね」
妹の飼っている猫の顔を忘れるほど、放任主義な兄ではない。
エドガーが言いたかったのは全く別のことだ。
「そうじゃなくて、どうしてミーシャがここに……いや、君がミーシャを連れてきたのかってことだよ」
「だって、あたしが部屋を出ようとしたら、ミーシャが寂しそうに鳴くんだもの」
ねぇミーシャ? と、リディアは腕の中の猫に向かって話しかける。もう子猫とは思えない細長の目は、見知らぬ部屋を警戒したように油断が無くエドガーには見える。
「だからって、ミーシャはもう子猫じゃないだろう。同じ屋敷にいるんだし、そんな理由でわざわざ連れてこなくても……」
エドガーは別段、猫好きというわけではない。
リディアが猫を飼いたがるなら、まあいいかと許したが、その猫を自室に、それも寝室に連れて来られるとなれば話は別だ。
「兄さまは、ミーシャのことが嫌いなの?」
嫌いではない。ただ、別段好きというだけではない話だ。
そんなのはリディアもわかっているだろうと思ったのだが、違うのだろうが。一瞬エドガーが言葉に迷った隙に、リディアはぎゅっとミーシャを抱えなおす。居心地が悪そうに、ミーシャがもがいた。
「じゃあいいわ。あたし、部屋に戻る。ミーシャと一緒に寝るわ」
「ちょっと待ってくれ」
猫になんて負けたくない。
考えるまでもなく、反射的に、エドガーは踵を返したリディアの腕を掴んでいた。
あぁもう。どうしようもなく自分はこの妹には甘いのだ。そんな今更なことを改めて思い知らされる。
「ミーシャのことが嫌いだなんて言ってないだろう? いいよ、今日はミーシャも一緒に寝よう。君が可愛がってる猫なら大歓迎だ」
「本当?」
「もちろん」
笑顔で頷けば、リディアも安心したように微笑んだ。「良かったわね」と話しかけられたミーシャには何のことか全くわからないだろうが。
リディアが腕を離すと、ミーシャはぱっと駆け出した。やはり見知らぬ部屋に警戒しているのか、机の下にもぐりこんでしまう。
「ミーシャ、大丈夫よ。ここはエドガーの部屋だもの」
リディアは慌てて駆け寄り、しゃがみこんで机の下にもぐったミーシャに話しかける。
そう言ったところで、ミーシャにはわかるはずもないだろう。なのに、真面目な顔をして話しかけるリディアがおかしい。そして、それ以上に可愛い。
「リディア、こっちにおいで」
寝室の扉を開いて、エドガーは手招きをする。
顔を向けたリディアは、ミーシャとエドガーを交互に見て、不安そうな顔をした。
「だって兄さま、ミーシャが」
「ミーシャなら大丈夫だよ。もう子猫じゃないんだ。この部屋に慣れたら、自由に動き回るはずだよ。だからリディアはこっちにおいで。それとも、ミーシャが動くまでずっとそこにいるつもりかい?」
尋ねれば、それはさすがに嫌だと思ったのだろう。わずかに悩んだ素振りを見せた後、リディアは立ち上がって寝室へとやって来た。
「ドアは開けておいて。ミーシャが入ってこれなくなっちゃうから」
つまりリディアは、自分の部屋ではそうしているのだろう。
伯爵ともあろう者が、猫に気を使うだなんてねと胸中で呆れながらも、エドガーはその通りにする。ドアを完全に開けておくと落ち着かないから、ミーシャが入れるような隙間を残しておく。
「今日本屋で、君が好きそうな本を見つけてね」
ベッドサイドに置いてあった本を手に取って見せれば、喜ぶだろうと思ったリディアはどうしてか不満そうな顔になった。
あれ? と不思議に思えば、ベッドに腰掛けたリディアが口を開いた。
「どうして本屋に行くのなら、あたしに声をかけてくれなかったの?」
そういえば、連れて行って欲しいとねだっていたことを思い出す。その隣に腰掛けながら、エドガーは癖のないキャラメル色の髪をゆっくりと撫でた。
「ごめん。ちょっと時間ができて、出かけた先で寄っただけなんだよ。次は君も必ず連れていくから」
「……別にいいわよ」
拗ねてようにリディアは呟く。そうしたリディアの表情はひどく可愛い。でも、長引かさればろくなことにならないのはわかっているので、エドガーは笑顔のままに言葉を続ける。
「本当だよ。君との約束を、僕が忘れたとでも思っているのかい? そうだ、明日の午後は何も予定が入っていないんだ。本屋に寄って、それからハイドパークに散歩にでも行こうか。それとも、美味しいケーキを食べに行く方がいいかな?」
リディアの表情が少し緩む。
散歩か、それともケーキに連れられたのかはわからないが、エドガーは頬を緩めた。
その瞬間に、リディアが声を上げた。
「ミーシャ!」
みゃあ、と小さな声を上げて、白い毛並みの猫が優雅な動作でドアをくぐった。
そうして広げたリディアの腕の中に、ぴょんっと飛び込んでくる。まるでそこが自分の定位置だというかのように。
「ミーシャ、この部屋にも慣れたの? ね、怖くなんかないでしょ?」
リディアの問いかけに、猫は答えるでもなく毛づくろいを始める。
と、その目が合った、―――ような気がした。
何せ、相手は猫だ。目があったなんて、そんな。
でも、気のせいではない。確かに目と目が合った、そんな確信をエドガーは覚えたのだ。
「今日はここで寝るのよ、ミーシャ。ほら、エドガーも一緒よ」
みゃあ、とミーシャは答えた。じっとエドガーを見つめながら。
何だか監視役ができたみたいだな、とふと思った。
それが何に対する監視役なのかは、自分でもよくわからなかったが。
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